ぶっちゃけ飲食店は軽減税率でレジを買い替えたほうが良いの?

ご存知の通り、2019年10月1日からスタート予定の軽減税率では、飲食料品の税率がイートインかテイクアウトかで、税率が異なります。
飲食店では、レジを買い換えるといっても、ハンディーターミナル(オーダーエントリーシステム)を導入している場合には、レジだけを買い換えるわけにもいかず、ハンディ等のシステム全体も入れ替えとなることも多く、1店舗あたり100~200万円の投資となりますので、簡単なことではありません。
なにしろ、国の助成金はレジ本体に対してだけを対象としているため、ハンディやキッチンプリンターに対しては助成金が出ません。ハンディターミナルも入れ替えるとなれば、いくら助成を受けたところでも投資額は莫大であり、慎重にならざるをえません。
「助成金の出る今がお得です!」とばかりにレジメーカーが一生懸命に営業してきますので、心が揺れる飲食店経営者も多いことでしょう。
お悩みになる気持ちはよくわかりますが、ここは状況をよく整理して検討されることをおすすめいたします。
1.本当に必要か?
2.本当に必要だったならば、いつ買うか?
3.本当に必要だったならば、どこからどれを買うのが良いか?
この3点をそれぞれ整理して考えてみましょう。
1.本当に必要か?
必要なのに買わないという選択肢はないはず。悩んでいるのは「必要なのかがわからない」、もしくは「本当は必要だと思うけど、なくてもなんとかなるのではないか?」という疑念が残るというケースだと思います。
軽減税率の制度は、イートインは10%、テイクアウトは8%が原則です。細かい対象品目は本サイト内でも色々なパターンを紹介していますので、よろしければあわせてご覧ください。
ほとんどのPOSレジは有償バージョンアップ対応でそこそこ乗り切れる
買い替えなくても、POSレジの場合はソフトウェアのバージョンアップで乗り切れる場合も多いのが実情です。
簡易なレジスター(いわゆる電子レジスター)はだめな場合が多いです。
アプリケーションのバージョンアップ対応は買い替えるほどのコストはかかりません。POSアプリケーションのバージョンアップであれば、ハンディターミナルなどのオーダーエントリーシステムもそのまま利用できることも多いです。
また、国の助成金も申請可能です。
無理して投資することはありません。POSアプリケーションのバージョンアップ対応が可能な機種を利用している場合には、間違いなくこれが一番の選択肢です。
ただ、10年以上経過しているような結構古い機種ともなれば、まずバージョンアップに対応することはないでしょう。その場合はやはり、買い替えるかどうかを検討するしかありません。
イートインとテイクアウトの両方あり
イートインとテイクアウトの両方がある場合、税率が混在します。この場合は基本的にレジは買い替えたほうが良いでしょう。
一番の理由は、店舗のオペレーション、事務処理が非常に煩雑になるからです。
レジメーカーの軽減税率の買い替えアピールのポイントとしてレシートの表記における法定対応ということはご存知の方も多いかと思います。
2019年10月1日以降は、レシートの表記に複数税率の内訳の記載が必須要件となります。これは軽減税率に対応しているレジでなければ出力できません。
では、2019年10月1日以降においても複数税率にレシートが対応していない場合、どうなるのでしょう?
実は、この制度、レシートの複数税率対応は必須要件ではあるのですが、当初は罰則はありません。
罰則が適用されるのは、2023年10月1日からとなります。
なんだ、だったら2023年10月1日までは、今のレジでも良いか。と思うかもしれませんが、そう単純な話ではありません。
それは、全ての事業者が税率別に税務申告をすることが義務化されるため、そのレシートを経費で落とす場合は、どの税率で計算されているか明記されている必要があるためです。
当面は、購入者でも販売店のどちらでも手書きで内訳を書いて運用回避しても良いことにはなっていますが、現実問題としてすごく面倒ですね。
レシートを受け取る方、つまりお客からしてみれば、経費として落とすには面倒なお店という見え方をしてしまうことになります。これは軽視できない問題だと思います。これだけお店の選択肢の多い日本で、マイナスポイントをつくるということは競合店へのアシストを自分でしてしまうぐらいの自覚を持たれたほうが良いと思います。
もう一つの理由としては、消費者としては、支払った代金の内訳がわからず、金額に対しての不信感を抱くことです。
何が8%なの?10%なの?とわかりにくいレシートをお客が好むということはありえません。
全てのお客がレシートを確認しているとは限りませんが、意外にきちんとチェックする人も多いのも事実です。
消費者の心理的に軽減税率スタート直後は、特にチェックされる機会が多いことでしょう。
テイクアウトのみ
では、テイクアウトのみだったらどうでしょう?イートインはなく、かつ扱う商品も飲食料品のみという場合です。
国税庁としては、軽減税率対象商品がある場合は*印をつけて、対象商品がわかるようにするとの具体的指示があり、軽減税率対応レジへの買い替えを推奨しているようにも読み取れます。
ただ、*印の表記がなくても、税率が8%と明記されていれば運用上、特に問題ないのではないか、そこまでならぎりぎりのボーダーラインなのではないかと筆者は考えています。
消費税とだけ記載されて税率がわからないようなレシートだと、お客が不信感をいだきやすいので、接客が面倒になるだけだと予想されます。
軽減税率に対応していない機種でも、消費税率の変更だけは可能な機種も多く、10%の表記が可能な機種もあるはずです。
軽減税率に対応前の機種では、レシートの表記の仕方も様々ですので、まずはレシートをご確認されるとよいでしょう。
イートインのみ
軽減税率対象商品はありませんので、基本的にレジを買い換える必要はありません。現行で稼動しているレジのほとんどは、前回、前々回の増税時に税率変更可能な仕様に設計されていますので、税率設定を8%から10%へ変更するだけで、今まで通り使い続けられるはずです。
もしかしたらメーカーによっては設定変更は、保守契約がない場合にはできませんとか言われることもあるかもしれませんが・・・・。
軽減税率対象商品がめったに売れない
悩ましいのはこのパターンです。通常はイートインのみだが、ごくたまにテイクアウトがある場合などです。
メインは飲食店だけど、お土産用にレトルト食品や、ドレッシングも販売する店舗などが該当しやすいのではないでしょうか。
売上規模として小さいため、わざわざレジを買い換えることが費用対効果として合わないから躊躇されるお気持ちはよくわかります。
しかし、筆者としては、レジを軽減税率対応機種に買い換えることを推奨いたします。
正確な現金管理、運用の煩雑さ解消の視点からトータルでの運用コストを考えた場合、いずれ買い換えるしかない以上、「いつ買い換えるか」だけの問題と思います。
2台のお会計端末を税率によって使い分ける
メインのイートインはPOSレジ、ランチの弁当だけは簡易なレジを利用するケースですね。POSを買い換えるには負担が大きいので、2万円ぐらいの安いレジを部分的に導入するという使い方ですね。
難しいのは売上データをシステム化している場合、どのように管理するかですね。レシートの問題は解決しても、データを集約する方法がない。POSは軽減税率非対応だから、あとでPOSに入力しようと思っても軽減税率での入力ができないから、売上金で入力するとデータの修正がえらく大変で現実的でないです。
上位システムに入力機能がついてる場合は、かろうじて運用可能ですが、店舗のスタッフに修正入力させる運用は現実的ではなく、やはり一旦POSの「入金」で処理して、本部で振替処理するしかないですかね。
それとも、あえて間違っている税率で計上して、本部で改めて正しい税率での売上計上するという修正処理をするのでしょうか?もちろん現金差異が出ないように税込みで商品マスタ作ることが大前提ですが。
なんか、日本中で変なRPAの使い方が増殖しそうな予感が・・・・。
いずれにしても、あまりおすすめはできない運用方法ではあります。
結構、店舗の運用しか考慮していないケースが多いのですが、バックオフィスも含めて運用をチェックしないと、思わぬところで人的負担が急増することになりますので、お気をつけください。
2.本当に必要だったならば、いつ買うか?
さて、軽減税率対応のレジが必要だったとして、いつ買うかについてです。
メーカーの言う通り、助成金が終了する前にという考え方も確かにあります。
助成金というのも注意点は色々あって、もらえるものはもらったほうが良いと単純に考えるのは危険なのですが、その話はまた別の機会に。
間違いなく言えることは、軽減税率がスタートする直前ではメーカーが忙しくて対応できない可能性があるということです。
簡易なレジ(ECR機)と違いPOSレジは要注意です。
消費税の増税のときは、レジメーカーは大忙しです。直前ではほとんど電話もつながらないぐらいの忙しさです。
特に、大手チェーンのシステムトラブル、運用トラブルを起こさないようにするだけて手一杯です。個人事業主の店舗を相手にしている場合ではないです。メーカーだって限られたリソースの中で精一杯の努力はしているのですが、法制度の変更のように日本全国で一斉に起こるイベントに対しては限界があることを理解したほうがよいでしょう。
できるだけ早めに導入まで持っていくのが安心です。そして早い段階でマスタの準備と設定変更の手順の確認を徹底しておくと良いでしょう。
はっきりいって今回の消費税増税は前回、前々回とは違います。飲食業は特に商品マスタの作成が煩雑になります。直前でも大丈夫と思ってたかをくくっていると痛い目にあうので、早めに行動しましょう。
3.本当に必要だったならば、どこからどれを買うのが良いか?
まさか軽減税率対応という表示があるレジなら大丈夫だろうと安心してました?
まぁ、普通はそう思いますよね。
メーカーは決して嘘はついてないです。軽減税率に全機能が対応しているなんて一言も言ってないのですから。
そう、対応しているんです。一部はね。ただし、対応していない部分もありますよってことです。
「えーっ!そんなの詐欺だ!」と言いたい心境はわからなくもないのですが、それはちゃんと確認しないで購入したお客が悪いのでは?ビジネスの世界ではそんなの通用しないでしょう。これが一般論です。
メーカーの言い分もよくわかりますよ。普通に考えて、複数税率対応なんてかなり大きなプログラム改修を伴います。やるのかやらないのか不透明な状況の中でプログラム改修に大型投資をするかどうかのギャンブルを迫られる。それも、十分な猶予期間も与えられずに。
完璧な対応なんてできるわけないじゃないか。
ごもっともです。
とはいえ、対応してくれないと困るのはレジを購入し、利用する飲食店です。
気になるのは対応していないってどんなところ?ということですよね。
そこはもう、メーカーによっていろいろです。
例えば、一括値引きとか。8%と10%に税率混在のお会計時にお会計全体に対して値引きをする場合、値引きを按分して、消費税金額も按分処理しなくてはいけません。値引き後の消費税金額を税率別に表示する必要性があるのですが、軽減税率対応と言いつつも、これができてないPOSレジもちらほら・・・・。
もう単品値引きとか、分類限定の値引きとかに運用を変えちゃえと単純な話でもないですよね。配布済みクーポンにはそんなこと書いてないし・・・。
レジでのお会計そのものには問題はないのですが、これ、経理で処理できないんですよね。税務申告では税率別の集計が必要なので、税務申告をどうしましょう?ということになりそうです。
あとは、レシート表記だけ対応しておいて、データ連携用のAPI部分はまだ作ってないケースも多いです。軽減税率スタートまで1年を切っても仕様すら固まっていないメーカーもけっこうあります。
仕様までは固まったけど、けっこう今まで取得可能だったデータが、取得できなくなるケースもけっこうあります。いわゆる機能退化です。
メーカーの言い分はわかるんですけどね。もともと複数税率のロジックに対応する設計でなかったものを改修する場合、プログラムをかなり大きく修正するのは難しいケースも十分ありえますから。設計的な理由だけじゃなく、H/Wのスペックとかパフォーマンスも関係するでしょうしね。ソフトウェアアップデートでの改修には限界があるから新規機種で新しく作ったほうが良いということもあるでしょう。
他にもいっぱいあるけど、あんまり具体的に詳しく書くと身バレするので書けないです・・・・。
で、どこのメーカーなら安心なの?ということですが・・・・・・・。それも言えません。
どのメーカーも一長一短みたいなところがあるので。
とにかく言えるのは、今回の消費税増税は単なる増税ではなく1物2価の複数税率制度の幕開けということで、少なからず混乱は避けられないということです。
その中で、検討材料に含めるべきは次の点です。
1)過去の消費税増税の経験で多くのノウハウを蓄積しているメーカーのほうが有利。しっかりと混乱への対策を考えていることが多い。
2)バックオフィス業務に精通していないメーカーは危険。財務会計、税務会計への理解度は、どのようなデータの持ち方をすべきかという設計思想に大きく影響する。設計からダメだと、プログラム改修もできることが限られる。バックオフィス業務に精通しているかどうかは大手企業に全店導入しているかが、一つの指標となる。大手企業はがっつりシステム化されているため、データ連携先のシステムを直接開発していなくとも、一緒のプロジェクトに参画した経験は非常に重要。ただし、メーカーWEBサイトの大手企業の導入実績というメーカーの宣伝文句には注意。実際は数店舗での試験導入というケースも多く、その実績はたいした経験値につながらないから意味がない。特にベンチャー系に多いので、直接聞いて確認することを怠らないように。
3)開発を自前でやっていない(OEMの)POSブランドは営業もSEでも、細かいことを聞いてもよくわかっていないため、事前の打ち合わせで問題が発覚しにくい。導入後の炎上時に開発元がしぶしぶ登場して動き出してくれれば、まだ良い方。